「元暴走族専務に感謝」
昔、お取引いただいた
ある靴メーカーさんの
専務さんとの出会いの話を書きます。
当時、営業ウーマンだったKちゃんに同行して連れていかれたのは
足立区の渋い駅から徒歩15分ぐらい
住宅街の中にある古い社屋でした。
外階段で二階に上がり
職人さんが靴を作っている作業場を通り抜け
応接間と言うか事務部屋に通されました。
私:「おい、こんな金の無さそうな会社に連れてきやがって、俺の人件費返せ!」
Kちゃん:「ひどい! 折角の新規アポだから、そんな事言わないでくださいよ」
私:「バカヤロー! こんなボロボロの会社に人材を紹介できると思うか?」
そんな失礼な会話をしていると
色黒でヒゲづら、ジーンズを履いた40代前半ぐらいの男が
入って来ました。
名刺交換したら、この男が専務であることがわかりました。
私:「こりゃダメだ。求人は断って早く帰ろう」 と思いました。
一応普段通り、会社の現状、求人背景などからヒアリングに入りました。
専務:「うちは見ての通り50人ぐらいの小さな会社だが、いい靴を作ってるつもりだ。
高い靴じゃない。ここにあるような大衆的な靴だけど、デザインや作りの工夫で
結構売れるものもある。
この靴を、全国を飛び回って売ってきてくれる営業マンを3人ぐらい欲しい。
営業マンが足りない」
私:「えー、全国飛び回る! 出張だらけですか?」
専務:「1ヶ月の半分ぐらいな」
私:「そりゃ相当大変ですね」
専務:「大変なのは靴のサンプルを、大箱に入れて持ち歩くことだ。
サンプルを見せないと靴店は相手にしてくれない」
我々:「えー! その箱は何キロあるんですか?」
専務:「靴を入れたら、20キロ以上だ」
我々:「えー! 重いですねー。そんな営業、誰がするんですか?」
専務:「誰がするって、うちの営業マンは全員やってるよ!」
Kちゃん:「いやー厳しい営業ですね。これまでは、どうやって営業マンを採用したんですか?」
専務:「これまでは、元暴走族とか俺や社員が知ってる荒くれ者ばかりだ」
Kちゃん:「えー! 暴走族ですか? 専務も元暴走族ですか?」
*Kちゃんは天然で、このような質問を平気でする人です。
専務:「俺の話はどうでもいいだろう! あんたたち、人を紹介してくれるんだろう?」
私:「はい、ですが紹介するには、お金がかかりますよ」
専務:「幾らだよ?」
私:「一人当たり前金と成功報酬を合わせて80万円ぐらいです」
専務:「高いなー。三人まとめて頼むから半額にしろ!」
私:「そんな事できるわけないじゃないですか! 絶対値引きしません!」
専務:「兄ちゃん、いい商売だな。仕方ねーな。じゃあ初めは試しに一人頼むよ」
私:「いや、頼まれても断るかもしれませんよ」
専務:「なに! それはどういう意味だ?」
私:「K、これから雇用条件聞くから、求人票を埋めてくれ」
私:「専務、前金をいただく以上は、ご紹介できる可能性があるか? 確認しなければいけません。
事前に御社の雇用条件をお聞かせください。」
専務:「あんた随分偉そうだな」
私:「紹介できなければ、御社にご迷惑がかかりますから、宜しくお願い致します。」
こんな感じで、給与や福利厚生など諸条件のヒアリングをしました。
Kちゃん:「専務、お休みは年間で何日ぐらいあるんですか?」
専務:「うー、計算しないとわからんが、年間70日ぐらいだ」
我々:「えー! そんな少ないの聞いた事ないですよ!」
専務:「そんな事知らねーよ。中小企業はこれぐらいが当り前だろ!」
私:「専務、申し訳ありませんが、年間休日70日ではご紹介できません。労基法違反ですよ!」
専務:「紹介できないとはどういう事だ!」
私:「はい。それでは応募する人がいませんよ。
専務や社員の方の知り合いなら、その条件でも採用できるかもしれませんが
月の半分は出張、20キロの靴箱を持ち歩く重労働、おまけに年間休日70日。
普通の人は応募しません!」
専務:「あんたなー!
初対面で若造のくせに、偉そうな事ばかり言いやがって。
休みが何日あったら紹介できるんだ? 言ってみろ!」
私:「うーん、最低100日です!」
専務:「100日も! うーん・・・」
私:「宜しくご検討ください。」
こんな感じで逃げるように帰途に着きました。
私:「K、お前、この会社は絶対に厳しいぞ。受注するなよ!」
Kちゃん:「そうですね。私も紹介する自信がありません」
それから1週間後か2週間後でしょうか?
Kちゃん:「武谷さん、あの専務さんから電話があって
年間休日を100日にしたそうです!」
私:「うっそー! ほんとか?」
Kちゃん:「はい、他の役員も説得して100日に変えたそうです!」
私:「あの専務、本気だなー」
Kちゃん:「ここまでされたら断れませんよ。専務がかわいそうです!」
私:「わかったよ。100日でも難しい求人だけど、やるしかないな。受注して来いよ」
と、本気の専務さんのおかげで
こんな予想外の展開になりました。
まさか、年間休日70日を100日にするとは・・・。
その2~3ヵ月後
Kちゃん:「武谷さん、あの靴屋さん、決まりました!」
私:「えー! ほんと? どんな人?」
となり、その後リピートオーダーをいただきました。
それからまた間もなく
Kちゃん:「武谷さん、また決まりました!」
となり、短期間で三人の方が入社されました。
その後、半年以上が経過しました。
Kちゃん:「今日、専務に聞いたら、皆さん凄く頑張っているそうですよ!」
私:「すげーな、あの会社。専務の面倒見の良さかな?」
Kちゃん:「暴走族が更生して一生懸命働いている会社ですから
絶対いい会社ですよ。きっと専務がいい人だからですよ!」
私:「そうだな。会社を見た目や第一印象だけで判断しちゃいかんな」
Kちゃん:「そうですよ。見た目で判断しすぎですよー」
私:「すまん、俺が悪かった」
専務
見た目や第一印象で判断してしまい
誠に申し訳ございませんでした。
入社された方々を
大切に育てていただき
誠にありがとうございます。
専務のような
ハンパない本気の経営者を
応援させていただきます。
「名もない草も
実をつける
いのちいっぱいの
花を咲かせて」 みつを
合掌。