「私の年収を下げてください?」
先日、現役の人材紹介コンサルタントのAさんとお会いしました。
お会いした瞬間から大変爽やかで
「誰からも良い印象を持たれる方だろうな」
と感じました。
私:「いやー、スッキリ爽やかな印象ですね。
その雰囲気なら業績もいいでしょう?」
Aさん:「え、私ですか?
いやいや大したことはありません。」
私:「そうですか?
実際、今の人材紹介会社での業績は何番目ぐらいですか?」
Aさん:「一応、トップではありますが
世の中にはもっと全然凄い人がいますので
こんな業績で満足はしていません。」
私:「謙虚ですね。
益々好印象ですね。」
Aさん:「いやー、今の会社は業績が悪くて右肩下がりですから
本当はもっと売らないといけないんです。」
私:「Aさんの会社は以前から存じておりますが
人材紹介以外の事業も手掛けていますよね?
むしろ、他の事業の方がメインではないですか?」
Aさん:「はい、その通りです。
そのメイン事業の方の業績が悪くて赤字なんです。」
私:「そうなんですね。
それでは、Aさんが担当されている人材紹介事業はどうなんですか?」
Aさん:「人材紹介事業部は黒字です。」
私:「え?
それなのに黒字の人材紹介事業部がもっと頑張らないといけないんですか?」
Aさん:「はい。
私たちが赤字部門をリカバリーしないといけませんので。」
私:「会社全体を考えると
そういう大変な事情もわかりますが
メイン事業もしっかりしてほしいですね。」
Aさん:「はい。
会社の状況は背水の陣ですから
私は年間目標を達成できなかったら辞める覚悟で
ここ数年やっています。」
私:「自分の担当事業は黒字なのに辞める?」
Aさん:「はい。
それぐらいの腹のくくりができないと
働く意味が無いと思っています。」
私:「いやー、大変立派な心構えですね。
Aさんのようなストイックな方には
久しぶりにお会いしました。
武士みたいで尊敬します。」
Aさん:「ありがとうございます。
ただ、誠にお恥ずかしいのですが
私のやせ我慢も限界になってしまいました。」
私:「どういう事でしょうか?」
Aさん:「人材紹介事業部としては黒字を維持していますが
今年も大幅に年収が下がります。」
私:「どれぐらい下がるんですか?」
Aさん:「100万円近くは下がります。
年間や四半期のボーナス廃止です。
管理職手当もありません。
人材紹介経験が無い方が社長ですし
信頼していた役員も退任しました。」
私:「頑張って利益を出している人材紹介事業部のトップコンサルタントが
そんなに年収を下げられるとは厳しいですね。」
Aさん:「はい。 私にも家庭がありますので。」
私:「奥さん、お子さん二人、住宅ローンもありますしね?」
Aさん:「はい。
今でも十分とは言えない年収ですから
これ以上、家族に我慢させられません。」
私:「そういう深刻な事情で
武士も止むを得ずご相談にお越しになったわけですね?」
Aさん:「はい。
この状況での脱藩は
武士なら切腹ものかもしれませんが
家族の生活には変えられず・・・。」
私:「いやいや、そんなにご自分を責めないでください。
誰が聞いても仕方ない転職理由だと思います。」
Aさん:「ははー、恥ずかしながらご理解いただき、ありがとうございます。」
このような面談の後、Aさんは複数社で内定を獲得されました。
その中でもX社様での評価は大変高く
人事マネージャーの方からも下記のような連絡をいただきました。
人事:「武谷さん、Aさんの件です。
最終役員面接でも 大変高い評価でした。
『絶対に採用しろ!!絶対に辞退されるな!!』 と言われました。
何とか協力してください。」
私:「やはり、高評価でしたか?
ありがとうございます。
承知致しました。
何とか御社にご入社いただけるよう
私も全力を尽くします。」
そして数日後、AさんはX社様のオファー面談に臨まれる事になりました。
私:「Aさん、いよいよオファー面談ですが
条件面で不満が無かったらどうされますか?」
Aさん:「はい。
不満が無ければ、その場でサインする覚悟です。」
私:「さすが、男らしいですね。
X社様は 『絶対に採用しろ!!』 と言うぐらい高評価ですので
多分ご満足いただける条件を提示されると思います。」
そして、オファー面談後、X社様の人事マネージャーからお電話をいただきました。
人事:「武谷さん、おかげさまでAさんはサインしてお帰りになりました!!」
私:「そうですか。
この度は、誠にありがとうございます。
さすがAさん、即断即決で男らしいですね。」
人事:「はい、本当に。
でも驚きました。
『条件が良すぎるから、私の年収を下げてください』
とおっしゃったんです!!
私、そんな事を言う人、初めて会いましたよ。
本当に男らしいと言うか
いさぎよいと言うか?」
私:「Aさんなら、そのような事をおっしゃるのもうなずけます。
Aさんは武士です。
目標達成できない時は切腹する覚悟で仕事をされると思います。」
人事:「切腹ですか?
何か時代劇に出てくる武将のような方ですね。
とにかく、素晴らしい方をご紹介いただき
ありがとうございました。」
私:「こちらこそ、誠にありがとうございました。」
Aさん、おめでとうございました。
ホントにさすがです。
新天地での益々のご活躍とご家族のご多幸をお祈り致します。
ただ、ご家族のためにも
切腹するのはやめてくださいね。
「永遠の過去
永遠の未来
その間の一しゅんのいのち
いまここに生きて
あたらしき春に逢う
ありがたきかな」 みつを
合掌。