「取締役会に乱入して出入り禁止」
この話も売れない新人時代の6月か7月だったでしょうか?
「○○ブレーキ様」 と言う新規企業に
アポイントを取って訪問しました。
商談相手は、取締役人事部長さんでした。
商談が始まるや否や、このように言われました。
人事部長:「おい、お前は新人だろう?
お前がどうしてリクルートのような会社に入社したかは知らんが
俺はリクルートの強引な商売のやり方は嫌いだ!!」
私:「そうですか? 私もリクルートのそういう所は嫌いです。」
人事部長:「そうか? お前は珍しいな。
じゃあ、なぜ入社したんだ?」
私:「そんな会社に入社して、自分の性格を変えてみるのもいいかと思いまして。」
人事部長:「そんな自虐的な事をするもんじゃないぞ。
もっとお前に合った会社があったんじゃないか?」
私:「いやー、でも九州の採用担当の人は人柄が良くて、おもしろくて
そんな兄貴みたいな先輩と一緒に働きたいと思ったんです。」
人事部長:「そうかー。もう済んだ事は仕方ないな。
ただ、変な社風に無理に染まるなよ。」
私:「変とおっしゃいますと例えば?」
人事部長:「あのなー、お前の会社の営業のやり方は、お客様本位じゃない。
自社の営業方針を客に押し付けるだろう?」
私:「例えば、どのような事ですか?」
人事部長:「例えば、月末になると申し込めとか
営業の締め切りがあるとか勝手な事を言って
こっちの都合も考えずに頭に来るんだ!!」
私:「なるほど、そうですよね。
月末はお客様には関係ないですよね。」
人事部長:「お前、リクルートには惜しい真面目な営業マンだな。
さっき、九州出身とか言ったな?」
私:「はい、実家は北九州市で、大学は熊本でした。」
人事部長:「うーん、お前みたいな純朴な若者をだまして採用しちゃいかんな。」
私:「・・・・・・・。」
人事部長:「うん、気に入った。
お前とは長い目で付き合おう。
でもいいか?
俺はリクルートの都合では絶対に取引せんからな。」
私:「ごもっともです。ありがとうございます。
今後とも長い目で宜しくお願い致します。」
人事部長:「よし、それじゃあ、お前の会社のサービス内容を説明してくれ。」
このような順調な進行で
サービス内容や料金に関してもご説明しました。
また、先方様には、営業職採用のニーズがあることがわかりました。
人事部長:「人材紹介会社かー、リクルートの中にそんな会社があるのは初めて聞いた。
求人情報誌より確実に良い人材が採用できそうだし前向きに検討しよう。
できれば、今月の役員会にかけてみるか。」
私:「あ、ありがとうございます!!
ご発注いただいたら、必ず素晴らしい方をご紹介できるように頑張ります!!」
今までに無い順調な出足でした。
いやー、素晴らしい人事部長さんに会えた。
真面目に営業してたら良い事もあるなー。
これで今月は目標達成できるかもしれない、と思いました。
早速、次の日の朝の営業課会でも発表しました。
リーダー:「武谷、お前は今月のヨミは相変わらずゼロか?」
私:「え、いやー、実は昨日訪問した○○ブレーキさんで
営業職のニーズがありまして、
取締役人事部長が今月の役員会にかけてくださることになりました。」
リーダー:「えー!! ○○ブレーキさん?
俺も昔行った事があるけど、いい会社じゃん。本当か?」
私:「はい、人事部長さんと意気投合しまして。」
Uマネージャー:「ははは、意気投合???」
リーダー:「じゃあ、今月のヨミに入れとくぞ。役員会は何日だ?」
私:「役員会の日にちはー・・・・、 未定です。」
リーダー:「バカヤロー!!
役員会が未定のわけないだろう!!
ちゃんと聞いて来い。」
うーん、格好つけて今月のヨミに挙げてしまった。まずかったかな。
その日、意を決して取締役人事部長に電話しました。
私:「お世話になっております。
昨日は貴重なお時間を頂戴しまして、ありがとうございました。」
人事部長:「おー、お前か? わざわざお礼の電話か?」
私:「はい、昨日は大変勉強になりました。」
人事部長:「そうだな。これからも真面目にコツコツ仕事しろよ。
じゃあ、またちょくちょく顔を出せ。」
私:「あ、あ、済みません!!
あのー、今月の役員会は何日に開かれるんですか?」
人事部長:「えー? そんな事をなんで聞くんだ?」
私:「あ、それはですね、昨日の企画の件
今月の役員会にかけていただけるとのお話でしたので・・・・・。」
人事部長:「なんだ、お前もそんな魂胆か!!
俺はリクルートのペースでは仕事はせんと言っただろう!!」
私:「は、はい。ごもっともです。ただ、一応確認だけと思いまして・・・・・。」
人事部長:「役員会は30日だ!!
ただ、俺は俺のペースで仕事をする。わかったか!!」
私:「はい、昨日のお話で十分にわかっております。」
人事部長:「そうか? お前が本当にうちと取引したいなら俺のペースを乱すな。」
私:「はい、承知しました。
変な電話をして済みません。
今後とも宜しくお願い致します。」
その翌朝の営業課会です。
リーダー:「武谷、役員会の日程は聞いたか?」
私:「はい、もちろんです。30日です。」
リーダー:「30日!! 最終日じゃないか?
申込書は間に合うのか? 大丈夫なのか?」
私:「はい、もちろん30日に申込書もらってきます。」
しまったー、言い切ってしまったぞ。
そして、あっという間に月末になり、決戦の30日が来ました。
その朝の営業課会です。
リーダー:「武谷、役員会は今日だったな。
お前は今月まだ売上ゼロ。
課の目標達成まで、あと○○万円。わかってるな?」
私:「はー、もちろんです。今日、申込書もらってきます。」
リーダー:「お前、Uさんに同行してもらった方がいいんじゃないか?」
私:「いいえ、私一人でもらってきます。」
これは、いよいよ追い込まれたぞ。何が何でも受注しないとやばいぞー。
うーん、電話だとこの前みたいに人事部長に説教されて終わりだな。
直接、飛び込むしかないな!!
何と言って飛び込むかなー?
くそー、出たとこ勝負じゃ!!
そして、○○ブレーキさんの受付に来ました。
私:「こんちは!! いつもお世話になっております。
○○人事部長は、いらっしゃいますか?」
受付さん:「お世話になっております。本日はお約束ですか?」
私:「はい。人事部長には大変かわいがっていただておりまして
近くに来たらちょくちょく顔を出せと言われましたので参りました。」
受付さん:「あー、そうですか。大変失礼致しました。
どうぞお掛けになってお待ちくださいませ。」
・・・・・・・・。
10分だか20分だか、その程度の間がありました。
そして、人事部長が現れました。
人事部長:「おー、お前か? なんだ今日は?」
私:「お、おはようございます!!
先日、お目にかかった際に
ちょくちょく顔を出せと言われましたので参りました。」
人事部長:「ちょくちょくだと?
忙しいこの月末に何がちょくちょくだ!!」
私:「え、月末!!
あー、たまたまそうですね。いやー済みません。」
人事部長:「俺は、リクルートのペースでは仕事はせんと言ったよな?」
私:「は、はい。私はそのようなつもりは全くありません。
ただ自然とこちらに足が向きまして・・・・・。」
人事部長:「うーん? どうでもいいが、来るなら来月に来い。」
私:「ら、来月ですか?
はい、もちろん来月も参りますが、その前にもまた来るかもしれません。」
人事部長:「何を言っているんだ!!
明日から来月だぞ。
その前と言うのはどういう意味だ?」
私:「はい。
今日の午後にまた来ます!!
先日の企画の件、本日の役員会で何とかご決済ください!!」
人事部長:「馬鹿者!!
俺はリクルートのペースでは仕事はせんと言っただろう!!」
私:「リクルートではなく、私とお取引ください。
絶対に素晴らしい人材をご紹介します!!」
人事部長:「もういい、帰れ!!」
と言って、人事部長は怒って奥に引っ込まれました。
うーん、やっぱりまずかったか!!
完全にご機嫌を損ねたな。
まずいぞ。これじゃあ、会社に帰れないぞ。
一旦退散して作戦を考えよう。
しかし、いくら考えても良い作戦が浮かぶなずもなく
「午後また行くしかない!!」 と考え、午後2時に再度訪問。
私:「こんちは!!大変お世話になっております。
○○人事部長は、いらっしゃいますか?」
受付さんは、午前中の人事部長と私の立ち話を全部聞いており、ネタバレしていた。
受付さん:「お約束は?」
私:「はい、ありませんが、午後もこの近くに参りましたので顔を出しました。」
受付さん:「少々お待ちくださーい。」
受付さん:「人事部長の○○は会議中です。」
私:「あー、役員会でしたね? そうですね。
何時ぐらいまで会議のご予定ですか?」
受付さん:「えー、はっきりわかりませんが、4時ぐらいの予定です。」
私:「そうですか!! ありがとうございます!!」
よし、役員会は4時に終わるぞ。その時間にまた来よう!!
そして、運命の4時が来ました。
私:「度々済みません!! 大変お世話になっております。
○○人事部長は、いらっしゃいますか?」
受付さん:「まだ会議中ですよ!!」
私:「そうですか?
でも、もうすぐ終わるでしょうから、こちらでお待ちしております。」
受付さん:「はー? それは困りますよ。」
私:「いや、私も困るんです。」
受付さん:「・・・・・。わかりました。
ちょっと人事部長の○○にメモを入れます。」
私:「あ、ありがとうございます!!」
受付さんが、メモを書いてくださり、奥に入っていきます。
その時、なぜか自分の体が自然と受付さんを追いかけて
オフィスの奥に吸い込まれていきました。
それに気づかず、受付さんが役員会の会議室のドアを開けました。
すると、空いたドアの真正面に人事部長が難しい顔で座っていらっしゃいました。
そして、明らかに驚いた顔で、私を見て出て来られました。
人事部長:「お前!!何度言ったらわかるんだ!!
俺はリクルートのペースでは仕事はせんと言っただろう!!
役員会中だぞ!! 帰れ!! 二度と来るな!!
折角目をかけてやったのに、お前も結局他の営業マンと同じか!!」
「万事休す」 で、奮闘むなしく退散。
その後、会社に帰る足がどれほど重かったか。
私:「Uさん、申し訳ありません!! 今日は受注できませんでした。」
Uさん:「はっはっは。
やっぱり駄目だったな。」
結局全てお見通しだったか。
「にんげんはねえ
追いつめられると
弱いもんだな
ひとごとじゃない
自分のこと」 みつを
合掌。