「吉本新喜劇が見たいから転職したい?」
昔、私がヘッドハンティングをやっていた時の話です。
ある半導体関連企業からの依頼で電子工学系のエンジニアを探していました。
独自の情報網をたどり
20代後半のある若い技術者Yさんに辿り着きました。
早速アプローチをし、アポイントを取ることに成功。
彼が勤務するA社の地方工場へ飛びました。
職場近くの喫茶店で会い話をしました。
Yさんはスカウトには大変乗り気でしたが
残念ながら実際にお会いしてヒアリングをしてみると
依頼企業の求めるレベルのスキルがない事が判明しました。
Yさんは今回の案件でなくても
自分が転職できる先の情報があれば教えて欲しいと言いました。
私:「今の会社に不満があるのですか?」
Yさん:「はい。私はもともと電子工学の大学院を出て
A社では当然研究所に配属されるものと思っていました。
でも配属されたのはここの工場で、仕事も納得できるものではありません。
今は工場内のシステム設計に携わっています。
こんな仕事をするために学んできたわけではありません。」
私:「そうでしたか、それは確かに不本意でしょうね。
人事異動の可能性はないのですか?」
Yさん:「それはわかりません。
でも私はすでに人事に対しても不信感を持っています。
入社時から希望も出しているのにこの配属ですから。」
私:「職場環境や人間関係などに不満はないのですか?」
Yさん:「それは特にありません。
ただ、私は関西の町中で育ったので
こんな田舎だと本当に何もなくてつまらないです。
休日に遊びに行く所もありません。
それと、ここではテレビで『吉本新喜劇』をやっていないんですよ!!
それが何よりつまらないです。
毎週関西に住む親に録画してもらって送ってもらっています。
それが唯一の楽しみです。」
私は思わず吹き出しそうになりました。
私:「さっき、転職活動を始めているとおっしゃっていましたが
どんな求人がありましたか?」
Yさん:「外資系のIT企業とか工場生産システムとか・・・。」
私:「それだと今と変わりませんよね?」
Yさん:「そうなのですが・・・。
半導体研究の職務経験はほとんどないですし
社会人経験年数も少ないですから
なかなか難しいみたいで・・・。」
私:「冷静に考えて、転職して将来Yさんがやりたい仕事をできる可能性より
現職に残って人事異動の道を求め続ける方が可能性はずっと高いです。
今嫌な事から逃げたいだけの転職では
転職できてもまた不完全燃焼になって辞めるだけですよ。
私は現職に残るべきだと思います。」
Yさん:「そうなんでしょうか?」
私:「どうしても転職したいのでしたら仕方がないですね。
でも私は今のYさんに求人企業を紹介する事はできませんよ。」
その後、私はYさんと連絡を取ることがなく、2年経ちました。
ある日、私はYさんからのメールを受け取りました。
Yさん:「ご無沙汰しています。
この度、念願叶って関西の研究所に人事異動が決まりました。
あの時、武谷(たけや)さんに言われて転職を思いとどまって
本当に良かったと思っています。
実はあの時同僚が同じような理由で転職したのですが
転職先でうまくいかず、今また転職活動をしています。
相談に乗ってやってください。」
私はすぐお返事を返しました。
私:「そうだったのですね。
それは本当におめでとうございます!!
これで心置きなく『吉本新喜劇』も見られますね。
益々のご活躍をお祈りしています。
ご友人の件は全力でサポートしますのでお任せください。」
「しあわせはいつも
自分のこころがきめる」 みつを
合掌。