「すっぽかしの女王」
あるクライアントに入社されて
働いている元キャンディデートのAさんは
今まで会った事のない変わった人です。
大手人材会社で何度もMVPなど受賞されているのですが
とにかく 「すっぽかしの女王」 なのです。
私もクライアントも何度かアポイントをすっぽかされました。
それでも次に会ったら
明るくあっけらかんとしており
すっぽかした理由もギリギリ我慢できるものだったりするので
ずるずると引っ張って入社してしまいました。
私:「入社される前にお祝いのランチをしましょう!!
食べ物は何が好きですか?
お寿司とか、うどんとか、うなぎとか、イタリアンとか?」
Aさん:「私はこの世の中でお寿司が一番大好きです!!
今から当日が楽しみです!!」
というやり取りがあって
約束した日時にホテルのロビーで待っていたのですが
やっぱり来ないのです。
そして、連絡も取れませんでした。
3~4日後、やっとメールが届きました。
Aさん:「車上荒らしにあって
全て盗まれてしまったので
連絡できませんでした。
大変済みませんでした。」
私:「それは災難でしたね。
それでは、あらためてランチの日時はいつにしますか?」
このメールにも電話にも一切返事もありませんでした。
そこで私は心を決めてAさんが入社するクライアントの営業部長に連絡しました。
私:「部長、ちょっとAさんが気になりまして電話しました。
今度も私はランチをすっぽかされたのですが
本当にあんな人を採用してもいいのですか?」
部長:「いやー、またそんな事があったんですか?
私もずっと気になっているのですが
入社前の健康診断はちゃんと受診したようです。」
私:「ほー、入社に向けての準備はしているんですね。
一応入社するつもりなんですね。」
部長:「はい、それはちゃんとやってるようです。
でも、入社してからが心配ですね。」
私:「そうなんですよ。
普通なら内定取り消しされても仕方ないような人ですよね。
部長、本当に採用して大丈夫ですか?」
部長:「いやはや、課長ともども戦々恐々ですよ。
とにかく採用すると決めた以上は
仕事に支障が無いようにちゃんと指導するつもりです。」
私:「部長にそこまで暖かい言葉をかけていただくと
益々申し訳ない気持ちになります。
お手数おかけしますが
本当に済みません。」
部長:「そんなに気に病まれなくても。
ご本人の問題ですし
今後は採用した我々の問題ですから。」
私:「ありがとうございます。
入社後もちょくちょく連絡させていただきます。」
部長:「はい、何か問題があれば私からも連絡します。」
そしてついにAさんは入社され
私はその週末に
部長に様子伺いの連絡をしました。
私:「部長、最初の1週間が終わりますが
Aさんの様子はいかがでしょうか?」
部長:「いやー、それがですね
まるで別人かと思うほど
積極的に研修に参加されていまして
私も驚いています。」
私:「ほー、驚きますね。
二重人格ですかね?」
部長:「仕事と仕事以外とでは
全然態度が違う人も時々いるそうですから
ひょっとするとそのタイプかもしれません。」
私:「はー、でももう少し様子を見ないとわかりませんね。」
部長:「はい、もちろん今後も注意して見守ります。
ところで、武谷(たけや)さん、今度は私とランチをしませんか?
私がそちらに伺いますので。」
私:「あー、わざわざ済みません。
それではご足労ですが、お待ちしております。」
という事になりまして
久しぶりに部長とランチをご一緒しました。
私:「部長、早速ですが、その後のAさんの様子はいかがですか?」
部長:「いやー、実に積極的でいいですね。
相当期待できる人材だと思います。」
私:「本当ですか?
時間の問題も大丈夫ですか?」
部長:「はい、むしろ模範的な社員です。
正直、私も驚いています。」
私:「いやー、私の目が節穴だったという事ですかね?」
部長:「武谷 (たけや)さんでも
こんなケースは初めてですか?」
私:「はい、初めてです。
何度も時間をすっぽかした人で
人材紹介コンサルタント(キャリアコンサルタント)として成功した人は
今まで見たことがないですね。
驚きです。」
部長:「今の調子で育ってくれれば
来年には相当な戦力になると思います。
良い人材をご紹介いただき
本当にありがとうございました。
今日はお礼に私にお金を払わさせてください。
人事からもこちらが払うようにと言われてきましたので。」
私:「部長、何をおっしゃってるんですか?
私がお支払いしますよ。」
部長:「いや、今日は本当に私がお支払いします。」
私:「いろいろな面でお世話になって
本当にありがとうございます。
ご馳走様です。」
いやー、Aさんには参りました。
「すっぽかしの女王」 が期待の新人に化けるとは
まだまだ修行が足りません。
部長、今回は誠にありがとうございました。
今後もAさんを宜しくお願い致します。
「アノネ
じぶんのもの
おれのものだと
思っているけれど
よくよく
考えてみると
頭の毛一本
じぶんの
おもうようには
ならねんだな」 みつを
合掌。