「変わることが成長だ!!」
私が30歳ぐらいの時、尊敬する上司が若くして亡くなった。
奥さんとお子さんと志を残して。
OB・OG含めて大勢の人がお通夜にも告別式にも行った。
私が人目をはばからず号泣したのは、この時だけかもしれない。
亡くなる前年、社内ゴルフコンペで一緒の組になった。
もう体調も悪かっただろうが、そんな事は一切言わないで、
同じ組の我々に 「グッドショット!!」 と連発していた。
ある日突然、その上司に個室に呼ばれた。
上司:「武谷 (たけや)は、この会社をどんな会社にしたいんだ?」
何を答えたのか覚えていないが、全く中身のない話をしたと思う。
後から思うと、その時には既にご自分の余命をご存じだったに違いない。
珍しく会社を休み入院していた直後で顔色も悪かった。
最後に自分の志を誰かに託したかったのだろう。
しかし、自分の考えを他人に強要する人ではない。
私が思い出すその上司の特徴は下記のようなものだ。
・忙しいのに、いつも社員一人一人を気にかけていた。いつも目線が合った。
・直属になった事もないのに、地獄の新人研修の翌日にランチに誘ってくれた。
・他の人は私を叱るのに、私の話をちゃんと聞いて元気づけてくれた。
・毎日の朝礼で必ず締めのスピーチをしていた。
・毎日新たな本を読んでいた。一冊の本からは一つの事を学べばいいと言っていた。
・遅くまで飲んだ日の翌日は、必ず誰よりも早く出社していた。
・「経営者は自分にも部下にも厳しい」 というスピーチが印象に残っている。
・「変わることが成長だ!!」 というスピーチが頑固な自分には一番印象に残っている。
・「信頼すれども信用せず」 がモットーだった。部下に対する愛情と上司としての自覚を
決して忘れない意思表明だった。
・潔く最後はすべての責任を取る人だった。
・合唱部出身で私の初婚の披露宴では十八番の 「愛の賛歌」 を歌ってくれた。
頭の切れる優秀な人だが、それ以上にいつも優しさがにじみ出ている人だった。
いつも話しかけてくれる。いつも話しかけやすい。
この上司に強い影響を受けた同僚が多い。
亡くなった後に、ご友人が追悼文集を作ったぐらい多くの人に慕われ尊敬されていた。
今、思う。
「変わることが成長だ!!」 と言ったのは、私たち部下と同時に
実はご自分を叱咤激励した言葉だったのではないかと。
本当は変わりたくなかったのではないか? とも思うのだ。
ビジネスパーソンとしては勉強して成長したいが、
人間としては大切なものをずっと持ち続けていたかったのではないかと。
こんな優しい人ほど早死にする。
この上司がいなくなった事によって、何か大きなものが失われた気がする。
その一部分も埋められなかったのが申し訳ない。
「マネージャーの仕事はさ、自分が目立つことじゃなくて、
メンバー個々人の長所を伸ばすことだよ。」
と天国からの声が聞こえてきそうだ。
「うつくしいものを美しいと思える あなたのこころがうつくしい」 みつを
合掌。