「銀座の寿司屋」
一昨日は家内の誕生日だったので、清水の舞台から飛び降りるつもりで
高くて有名な銀座の寿司屋に行った。
こんな高い店は生まれて初めてだ。
まあいい。結婚10年だから奮発しよう。
寿司だけならまだいいが、私たちはワインもがぶ飲みするので料金がかさむ。
小心者なので心配だ。
事前に予約の電話をして、根掘り葉掘り聞いたので、電話のおばさんに笑われた。
私:「初めてなんですが、つまんで飲んで握ってもらって7~8万円ぐらいですか?」
おばさん:「うーん、それは何を注文されるかにもよりますしね。」
私:「例えば、つまみってどれぐらいですか?」
おばさん:「うーん、一品でも5000円以上するんですよ。」
私:「えー!!
わかりました。
それはやめときます。
じゃあ、つまみを含めたコースみたいのはあるんですか?」
おばさん:「はい。もちろん、松竹梅ありますよ。
こちらの方が安心だと思います。」
私:「ありがとうございます。
ではそちらでお願いします。」
というわけで、一番リーズナブルなコースを予約した。
現地待ち合わせで19時に寿司屋に入ると既に満席で大盛況。
かなり大きな寿司屋なのに既に満席とは?
周囲を見渡すと、明らかに金持ち常連客が多そうだ。
客がはめている時計が違う。
ロレックスはカローラみたいで、パテックフィリップ(世界最高峰のスイス時計)もちらほら。
腕にベンツを巻いて歩いているようなものだ。
この空間だけバブル絶頂期みたいだ。
多分初めてなのは、私たちと外国人観光客ぐらいだ。
すぐに家内も来た。
板前さん:「いらっしゃいませ。
本日はありがとうございます。」
私:「いつもこんなに混んでいるんですか?」
板前さん:「今日は月曜日ですから、これでも出足が遅い方なんですよ。」
私:「へー、すごいですね。」
板前さん:「まず、お飲み物はどうされますか?」
私:「わ、ワインリストはありますか?」
板前さん:「はい、承知致しました。
梅さんにワインリスト!!」
私:「それじゃ、このシャンパンのハーフボトルをお願いします。」
板前さん:「はい、承知致しました。
失礼ですが、今日は何かの記念日ですか?」
家内:「はい。
私の誕生日と結婚10年です。」
板前さん:「そうですか?
そんな大切な日に当店をお選びいただき、誠にありがとうございます。」
家内:「こちらこそ!!
いつか来たかったので嬉しいです。」
私:「相変わらず調子いいな。」(黙)
お通し、つまみ、お椀、握り、デザートのような順番で出てきたと思う。
シャンパンのハーフボトルはあっという間にあけて、次は一番安い白ワインのボトルを飲んだ。
板前さん:「飲むのも食べるのもペースが速いですね。
こんな速いお客さんは珍しいですよ。」
私:「済みません。
貧乏なのでゆっくり飲んだり食べたりできないんです。」
家内:「ははは、これがいつものペースなんです。」
それにしても横の三人組の中のおやじがうるさい。
アラカルトでバンバンつまんだり、握らせたりしている。
一体いくらかかるんだと、こっちが心配になる。
明らかに社長だ。
50代の板前さんをお前呼ばわりしているし、よくTVにも出るご主人もからかっている。
社長:「ここの寿司はまずいけど仕方なく来てやってる。
こいつがここの主人や。
こんな小さいのに偉そうにゴルフはせこくてうまい。
どや、横のお客さん、ここの寿司は美味しいか?」
家内:「はい、とっても。」
社長:「おかしいな。
俺たちにだけに、まずい寿司を出してるんやろう?
ためしに隣のお客さんにも、このまずい卵焼きをあげて。」
私:「えー!!
そんな申し訳ないですよ。」
社長:「ええねん。
食べてもらって正直な感想を聞かせてもらえますか?」
家内:「とっても美味しいです!!」
私:「相変わらず調子がいいな。
正直甘いだけで美味しいとは思わないな。」(黙)
驚いたのは、板前さんがつまみを作ったり握ったりしながら、ワインのお酌もしてくれる。
ぞれもお客さんと常に話しながら、実に手際よくやっている。
寿司屋の板前さんと言うよりエンターティナーだと思った。
社長:「こいつな、この店のナンバー2で調子に乗っとるんや。
年収も1千何百万円ももらって。」
いやー、これぐらいお客さんあしらいが上手なら、それでも年収安いでしょうと思った。
横の三人組は、食品メーカーの経営者だったようだ。
その三人がいなくなって、代わりに外人三人組が入ってきた。
そしたら、板前さんがいきなり英語を話し始めた。
イタリア人だった。
私:「ボナセーラ!!
グラッチェ!!
ペルファボーレ 『まぐろ』!!」
この辺になるとかなり酔っていたのではっきり覚えていない。
その後も板前さんやご主人が、箸の使い方や寿司の食べ方を英語で説明していた。
私:「ここは寿司のテーマパークだな。
寿司屋さんと言うより日本の代表的な観光地だ。」(黙)
もっと美味しい寿司屋さんは、三分の一の値段でもある。
だから、そこが純粋な寿司屋さんで、ここはテーマパークなのだ。
まあ、一生に一回ぐらい、こんなテーマパークもいいだろう。
十分堪能させていただきました。
ありがとうございました。
今日からまたインスタントラーメンで生きていきます。
「うつくしいものを美しいと思える あなたのこころがうつくしい」 みつを
合掌。