「またしても勝手に大物スカウトの暴挙!!」
リクルートエイブリック(現リクルートエージェント)を1999年ぐらいに退職され、
今は独立してご活躍されていらっしゃる、名古屋支社長だった女傑のKさんの話です。
Kさんは大変営業力があり、大胆な言動ときめ細かな仕事に定評がありました。
上司(社長も含む)も部下もしばいてしばいて、しばき倒して我が道を行く
凄いパワーのある方です。
怖い人に思われるかもしれませんが、女性らしい優しさを併せ持った方です。
私がエグゼクティブサーチ事業部に左遷されていた時の話です。
Kさんが東京の事務所に来るなり、エグゼクティブサーチ事業部に近づいてきました。
Kさん:「ちょっと貴方たち、いい男がこんな狭い所でくすぶってるんじゃないわよ!!
何か仕事してんの?」
上司のT部長:「してるような、してないような。どっちに見える?」
Kさん:「ちょっとTさん、冗談は顔だけにしてよ!!
こっちは名古屋から貴方たちのために大きな仕事を持って来たんだから!!」
我々:しーん。この話は裏がありそうだな。簡単に乗せられると、こき使われるぞ。
Kさん:「何かリアクション悪いわね。赤字部門のくせに!!
もっとポジティブに取り組まないとずっと窓際よ。
ほらほら、どうせ暇なら早速打ち合わせよ。
武谷(たけや)さんとRちゃんも来てくれる?
三人に頼みたいの。」
我々:「わかりました。
じゃあ、話を聞きます。」
Kさん:「ここじゃ駄目よ。
これは極秘求人だから会議室で話しましょう!!」
という感じで、会議室に、Kさん、T部長、Rちゃん、私の4人でこもりました。
Kさん:「実はO社なんだけど、年頭の社長方針で住宅事業の強化が重点項目の
一つに挙がったのよ!!
住宅事業はこれまでパッとしなかったでしょう?
だから今年から本気でてこ入れしたいらしいのよ。
そこでね、『同業界のプロフェッショナルをスカウトしろ!!』
という号令がかかったのよ。
今日はそれを貴方たちに頼みに来たの。」
私:「完全にサーチ型の紹介ですね?
上層部にばれたら、この話はつぶされますよ。
スカウトは社長の岡崎さんから、リクルートグループ全体の取引関係の障害になる
可能性があるのでやるなと先日も釘を刺されましたよ。」
Kさん:「武谷(たけや)さん、貴方らしくないわねー。
そういう危ない仕事をやるのが貴方の取り柄でしょう!!
とにかく、お客さんがうちにやってほしいと言ってるのよ!!
うちが断ったら他社に発注すると言ってるのよ!!
もう予算も数千万円取ってるのよ!!
やるのやらないの!!」
T部長:「Kちゃんに、そこまで言われたら仕方ないな。
武谷(たけや)、Rちゃん、近々名古屋に行こうか?」
Rちゃん&私:「行きましょう!!」
T部長:「その代わり、この話はオフレコね。」
こんな感じで、Kさんに押し切られて名古屋のO社に訪問しました。
夏の暑い日でした。名古屋の暑さは東京以上です。
O社の本社で、人事担当取締役、取締役事業部長、人事課長、人事担当者など、
複数の方とお会いしました。
Kさんから事前に渡されたO社の資料が完璧な物で驚きました。
お客様用、T部長・Rちゃん・私の分、一人一冊ずつ完璧に仕上がっていました。
また、その場の仕切り方が上手で大変円滑に話が進みました。
もう後戻りはできません。
以前から使っていた調査事務所から、主な住宅メーカーの営業幹部リストがあがってきたのは
2週間後ぐらいでした。
このリストを、T部長、Rちゃん、私の三人で手分けして毎晩自宅からTELアポです。
結果としては、我々三人で4~5名の方をスカウトし、O社にご入社いただきました。
O社からは、それなりのご評価を頂戴したと伺いました。
また、入社された方々は1000万円以上の高年収でしたので、我々としても高額な報酬を
得ることができました。
その中で、私がスカウトしたAさんの件を書かせていただきます。
この方は、大手ハウスメーカーの千葉支店長でした。
電話をかけたら、「千葉で会うならいいですよ。」と言われ、
佐倉駅?あたりで待ち合わせして、駅前の喫茶店で接触しました。
Aさん:「私はずっと全国1位の業績です。
社内報でも模範的な支店長として、よく紹介されています。
そんな簡単に辞められませんよ。」
私:「素晴らしいですね。
このまま今の会社にいらっしゃれば将来は役員コースでしょう?」
Aさん:「どうかなー?
会社組織とか人事と言うものは、そんな単純じゃないですよ。」
私:「何か気になることがあるんですね?」
Aさん:「最近、上司である東日本担当役員が変わりましてねー。
私は前の上司には公私に渡り、大変お世話になったんですが・・・・・。」
私:「今の上司になって風向きが変わったんですか?」
Aさん:「以前のように自由がきかなくなりましたよ。
任せてくれれば幾らでも大きな仕事仕込めるのに。」
私:「Aさんのような実力者が、不自由な環境で力を発揮できないのは本当にもったいない。
今はまだ40歳ですが、変に我慢してくすぶってる内にすぐに45歳、50歳になります。
その間に若手が上に上がって来て、取り返しがつかなくなりますよ。」
Aさん:「そうですね。私もそう思います!!
私の事も詳しく話しますので、O社さんの事も詳しく聞かせてください!!」
このような展開になり、初対面で2時間半、話し込みました。
その後、AさんはO社の面接に進まれました。
Aさんは業界でも有名な方で、O社の中にも知っている人がいまして、
「Aさんですか? 本当にあんな凄い人がうちに来るんですか?」
というような話になり、とんとん拍子で内定しました。
ただ、Aさんは全国1位の支店長ですから退職するのが大変でした。
最後はどうして辞められず、独立開業すると嘘をつかなければなりませんでした。
入社後も東京勤務だったのですが、関東にいては見つかるので1年ほど名古屋に単身赴任
されていました。
それから5年ぐらいの歳月が流れ、私がJACリクルートメントに転職してからです。
新卒社員のB君に、この仕事のダイナミズムを知ってもらおうと思い、
O社に電話してAさんの居場所を聞き出しました。
幸い東京にいらっしゃるとのことで、新卒のB君を連れて、Aさんを訪ねました。
5年ぶりでしたが、大変お元気そうで活き活き働かれていました。
Aさん:「武谷(たけや)さん、もうとっくに前の会社にもばれてしまって、
今ではよく業界の会合で顔を合わせますよ。お互いに笑ってますよ。
O社では、この業界に詳しい人が少ないですから自由にやらせてもらってます。
おかげさまで、最近大きなプロジェクトにも食い込めるようになってきましたよ。
少しは貢献できてるかな?」
嘘をついてまで辞めていただくのは、Aさんとしても、私としても不本意でしたが
本当にトップクラスの人材になると、辞められる会社は大変ですから、
考えられる全ての手段を使って慰留します。
それを振り切るのは、最後は転職するご本人の強い意志や渇望感です。
それがなければ、Aさんのように次の職場でも活躍することはできません。
我々は黒子であり、あくまできっかけづくりが役目です。
「そのときの出逢いが人生を根底から変えることがある よき出逢いを」 みつを
合掌。