「4000万円で成約1人!!身の危険を感じた仕事。」
まだ、私が入社3年目の時の話です。
たまたま昔のお客様で、事業者金融業や消費者金融業を営まれているA社様を
担当することになりました。
通常は、消費者金融業界からの求人はお断りしておりました。
定着率が悪い、業界イメージが悪く求人をお受けしても人材をご紹介できない、
などの理由からです。
ただ、A社様は過去、鬼マネージャーのSさん が担当し紹介実績があるばかりでなく、
その時にご入社された方々の内お三方が取締役に昇進され、ご活躍されているという
大変素晴らしい実績がありました。
従って、A社様に関しては、例外的に求人をお受けすることになりました。
天才営業マネージャーのNさん と同行し、求人の背景や求人内容のヒアリングを行い
企画書を作成して、先方の社長と常務にプレゼンしました。
*お二人ともパンチパーマでした。
求人内容は、ほとんど全ての部署の部長・役員クラスが欲しいという豪快な商談でした。
企画内容は、TRS780万円(上級管理職2名)を4本で
3120万円。
それに加えて、朝日新聞と日経新聞の全5段を2回ずつで約1700万円。
合計で約4800万円です。
これで上級管理職が8名採用できれば、一人当たり600万円で高くない。
私:「Nさん、いくら何でも4800万円出してくれますかね?」
Nさん:「武谷(たけや)、強気だよ~。
お前が少しでも高いと思ってプレゼンしたら、相手にも伝わるぞー。
ダメダメ、強気だよ~。」
私:「確かに上級管理職を一人600万円で採用できれば安いですよね。
実際に過去うちから入社した方が三人も役員になってますからね。」
Nさん:「そうだよ~。
あの三人が居なかったら、今のA社の繁栄はないよ。
それを考えたら全然高くないよ~。」
私:「そうですね、強気でプレゼンします。」
という感じで、Nさん と二人でA社様にプレゼンに行きました。
社長も常務もパンチパーマで眼光鋭く、正直ちょっと怖いです。
しかし、お話しすると明るくて豪快で楽しい方々です。
私:「以上、今回の上級管理職採用に関する企画内容です。
社長、いかがでしょうか?」
社長:「4800万円、まあいいんじゃないか!!
よろしく頼むぞ。
俺は用があるから、後の話は常務と進めてくれや。
じゃあな!!」
と、あっさり4800万円の企画にOKが出て、社長は応接室を出て行かれました。
嬉しいような恐ろしいような複雑な気分ですが、とにかく前代未聞の大型受注です。
私:「これは、ちゃんと決めないと殺されるぞ~。」
数週間後、いよいよ朝日新聞と日経新聞の広告が掲載されました。
求人が上級管理職であり、年齢制限が50歳までOKでしたので、
300人程度の応募がありました。
その応募者を新橋本社ビルの大会議室に集めて、A社様の会社説明会を行うのです。
その直後、応募希望の方を5つぐらいの応接室に分けて、一次面接を実施するという流れでした。
ただ、ここで一つ問題がありました。
求人広告には、A社様の社名は一切掲載していませんでした。
社名を掲載すれば、業界イメージだけで判断され応募者が激減すると予測したからです。
広告には社名を掲載せず、会社説明会の場ではじめて社名をお伝えする。
それが嫌で説明会途中に帰られてしまう方が出ても仕方ない、という勝負に出ました。
しかし、できるだけ多くの応募者に残っていただきたい。
そのため、会社説明会には社長以下全役員と人事部長の合計5名様にお越しいただきました。
会社説明も、社長や常務(入社体験談)、人事部長に熱を入れて話していただきました。
当日の来場者は、大会議室にも入りきれない200名程度の方々にお越しいただきました。
私(司会):「社長様、常務様、人事部長様、会社のご説明や入社体験談のお話をいただき、
誠にありがとうございました。」
私(司会):「それでは、ご来場に皆様、この時点でご興味がある方は、そのままお残りください。
午後は一次面接となります。
一方でご興味が無い方は、この段階でご帰宅いただいても結構です。
本日はお休みにもかかわらず、ご来場いただき、誠にありがとうございました。」
私がそう言い終った直後、約100名ぐらいの方々が席を立たれました。
社長や常務に一生懸命ご説明いただいたのですが、やはり業界イメージが悪いんですね。
しかし、100名ぐらいの方々が残られました。
午後になりました。
午前中の最後に、応募者の方々から履歴書と職務経歴書を回収し、
誰をどの役員に面接していただくかを昼休み中に決めました。
その振り分けに従って、お一人ずつ応募者の方を各応接室(面接会場)にご案内します。
午後1時に面接が始まり、最後の応募者の方の面接が終わったのが5時近くになっていました。
長い方は、4時間近くお待ちいただいたことになります。
その点、この企画には無理があったと反省しております。
応募者の皆様、誠に申し訳ございませんでした。
そんなバタバタした感じで、A社様の会社説明会は終わりました。
応募者の方々も、多くの方を面接されたA社様の方々も、説明会を主催した我々も、
全員クタクタでした~。
週が明けて月曜日になり、一次面接のレビューのためA社様を訪問しました。
社長:「うーん、たくさん面接して途中から頭がボーとしちゃったよ。」
人事部長:「ちょっと忙しいかったね。」
私:「ところで一次面接の結果、良い方はいらっしゃいまいしか?」
常務:「ほとんど難しかったね。
部長だとか、役員だとか言う言葉につられて来た人が多くて、
どんな事をやりたいのか、それがはっきりしない人が多かった。」
社長:「まあ、今回は花火みたいなもんだろう?
折角、おたくに登録している人材がいるんだから、その中から良い人を選んで
紹介してくれればいいよ。
じゃあ、そういう事でよろしく。」
私:「いやー、100名も面接していただいて候補者はゼロですか?」
こんな感じで、大会社説明会はただの花火になってしまいました。
その後、日常的にご登録いただいた方々の中から、個別にご紹介する努力をしました。
ただ、やはり業界イメージの悪さは払拭できず、なかなか紹介人数が増えません。
私:「4800万円もらって、まだ一人も決まってないぞ。
このままじゃ、俺は消されるかもしれんぞ~。」
毎日、誰かに尾行されてないか? 気になるようになりました。
そんなある日、初めての朗報がもたらされました。
30代の金融業界経験ある方が、お一人決まったのです。
私:「上級管理職じゃないけど決まって良かった。」
でも、その後が続きませんでした。
当時のキャリアアドバイザーも、メーカーや商社、金融と言っても都市銀行という
大企業出身者が多いので気分的に乗らないし、実際、登録者に説明しても断られるのです。
私:「参った。万策尽きたか?」
そして、受注後6ヶ月が経過し、A社様に状況報告に行く事になりました。
私:「なかなかご紹介が出せなくて済みません。」
常務:「うーん、景気が良くなって来て、他にいい求人がたくさんあるんだろう?
うちには順番が回ってきそうもないな。」
私:「誠に申し訳ございません。」
と謝罪してエレベーターホールに向かいました。
そしたら何とエレバーターホールで恐れていた社長と鉢合わせになりました!!
私:「しゃ、しゃ、社長!! この度は結果が出せず、申し訳ございません!!」
社長:「は、は、はー。
今回はお前にうまくもうけられちゃったな!!
じゃあな!!」
と、笑いながらおっしゃって、エレベーターで降りて行かれました。
私: ぽかーん。
これが最後に社長にお目にかかった時です。
その後、再度の会社説明会開催を提案しましたが、A社様も乗ってくるわけもなく、
今回の企画はフェードアウトしてしまいました。
残った広告料金600~700万円は、私の後任にされたRちゃんが引き継ぐことになり、
Rちゃんがキャンセルを切らされたと思います。
Rちゃん、本当にごめんなさい。
何よりA社様の社長、常務、人事部長、結果を出せず、誠に申し訳ございませんでした。
また、応募者の皆様、誠に申し訳ございませんでした。
今後は、お金に釣られて無理な受注は致しません。
「にんげん 我慾のかたまり にんげんのわたし」 みつを
合掌。