「天才営業マネージャー」
今日は、私の4人目の上司Nマネージャーについて書きます。
ちょうど私が入社2年目の頃です。
一言で言うと、Nさんは営業の天才です。
新規の企業に同行してもらうと、応接に通されるなり、
「暑い、暑い。 」と言ってすぐに上着を脱いでしまいます。
さらには、足を組んでたばこを吸い始めます。
そこに初対面のお客さんが入ってきて、みなさん驚かれます。
新規のお客様は、だいたい上場企業の取締役クラスです。
Nさん:「あ、どうもすみません。暑くて上着脱いじゃって。たばこもすみません。失礼しました。」
と言ってたばこを消し上着を着るふりをするのですが、大半のお客さんが、
「いやいや暑いでしょうから、脱いだままで結構です。」
と、おっしゃっていただけることが多く、
ほとんど上着を着て営業をしているところを見たことがありません。
実は既にお客様との距離感を縮める営業が始まっているのです。
さあどんな営業が始まるんだろうと思って横で見ていると、
Nさん:「いい色に焼けてますねえ。ゴルフがご趣味ですか?」
などと、必ず相手の趣味の話をして、それが約1時間の営業のうち50分です。
Nさん:「そうですかー。先週の土曜日はどこのゴルフ場に行ったんですか?」
人事部長:「レイクウッドです。」
Nさん:「いいコースですね。スコアどうでした?」
人事部長:「いやあ。良くも悪くも無くですよ。85くらいだったかなあ。」
Nさん:「お上手ですね!!バーディー取れました??」
人事部長:「ああ、15番のショートでね。」
Nさん:「ほう、あの長いパー3ですか!!
180ヤードくらいありますよね。
何番で打ったんですか?」
人事部長:「5番アイアンかな。」
Nさん:「すごいですね!!飛びますね!!今度是非ご一緒しませんか?」
というような、全く仕事と関係ない会話が50分続き、私が横で心配していると、
最後の10分だけ仕事の話をします。
Nさん:「ところで中途採用の件ですが、今年はどれくらい採用されるんですか?」
人事部長:「若手のエンジニアを中心に、あとは営業職を若干名かな。」
Nさん:「そうですかー。しかし、中途採用も求人広告じゃあたりはずれが多いでしょう。
その点、うちのサービスなら大丈夫です。
安心パッケージ企画があります。
エンジニア採用であれば着手金780万円になりますが、いかがですか?」
人事部長:「え!! 着手金だけで780万円ですか? 高いなあ。」
Nさん:「んんっ??やらないんですか?」
人事部長:「い、いや、やらないわけではないんだけれども・・・ 。
ちょっと社内で検討しないと・・・・。」
Nさん:「やらないわけではない?
やらないわけではないということは、やるということですね?
人事部長のお気持ちとしては、やりたいということですね?」
人事部長:「個人的には興味はあるけど・・・ 。」
Nさん:「そうですか、ありがとうございます。
武谷(たけや)、早く申込書出して。」
私:「はい。780万円コースですね。」
Nさん:「では部長、今日のところは部長の個人印で結構です。」
人事部長:「えっ!!今押すの?」
Nさん:「え、やらないわけではないんですよね?」
人事部長:「た、確かに、やらないわけではない。」
Nさん:「では、こちらに印鑑お願いします。」
そのような流れで、人事部長は怪訝な顔をしながらも、ご自分の印鑑をついて
申込書を持ってこられます。
そして、申込書を受け取るや否や、
Nさん:「武谷(たけや)、早くしまえ。
部長、今日は大変ありがとうございました。
次回は是非いいコースでゴルフをご一緒しましょう!
ご希望のコースをお取りします。
それでは次のアポイントがありますので、今日はこの辺で引き取らせていただきます。
今後とも宜しくお願いします。」
と言って、お客さんの気が変わらぬ内にさっさと帰ってしまいます。
このような、相手を催眠術にかけて申込書をかすめとる営業にかけては、
このNマネージャーの右に出る人はいないでしょう。
このような営業を何十回も横で見て、何度マネしようとしてもキャラクターと迫力が違うせいか
全くうまくいきませんでした。
Nさんは、今ではサーチコンサルタントとして独立開業され活躍されています。
今も営業スタイルは変わっていないと思います。
「自分が自分にならないで だれが自分になる」 みつを
合掌。