「100万円の小切手と銀座の寿司(旧建設省のバカ役人に遭遇)」
まさに、「役人の汚職」 と言ってもよい場面に遭遇した夜の話を書きます。
既に他界されましたが、銀座に偉い建築士の大先生がいらっしゃいました。
何十人もの建築士を抱える有名な建築設計事務所を経営されていました。
日本建築士協会の会長をお務めになったこともある大先生です。
この業界の方なら知らない人はいないでしょう。
「支配人(営業統括部長のような人材)が欲しい。」 ということで、
鬼マネージャーのSさん と二人で訪問しました。
Sさん:「武谷(たけや)、この話はやばいから断ろう。」
私:「どうしてですか?」
Sさん:「求人を依頼されて、もし決まらなかったら、大先生だけにやばいぜ。」
リクルートの役員連中も頭が上がらない先生だぞ。」
私:「じゃあ難しい求人なので、先生にご紹介できるような人材は登録されていません、
という理由で断りますか?」
Sさん:「失礼の無い様に、そんな感じだな。」
現地に到着し、大先生の部屋に通されました。
かなり広かったです。
間接照明、重厚な家具、その中には高級なブランデーやウィスキーが
並べてある戸棚もありました。
先生はご自分のデスクの革張りの椅子から、我々が座る黒皮のソファーに来られました。
そして、太い葉巻に火をつけて、おもむろに話し始めました。
*田舎者の私(当時24歳)は、この時、葉巻を吸う日本人を初めて見たんです。
「これが金持ちかー」と思いました。
先生:「いやー、わざわざ来てくれて悪いな。」
我々:「とんでもございません。」
先生:「いつもおたくの社長のIさんとか、Mさんとかに世話になっとるよ。
我々:「いやー、こちらこそ大変お世話になっております。」
先生:「まあしかし、Iさんは福の神みたいな人だな。いつもニコニコして楽しいね。」
我々:「はーそうですか? ありがとうございます。」
先生:「ところで話はだいたい聞いてるね?
支配人を探しているが、なかなか見つからないんだ。」
Sさん:「いやー先生の大事務所の支配人は、相当な人物でなければ務まらないでしょう?」
先生:「だからIさんに頼んで、君たちのような人材探しのプロに来てもらった。」
Sさん:「どんな人物なら務まるのでしょうか?」
先生:「自分のエンジンを持ち、自分の羽で飛べる飛行機のような奴だ。」
私:「ドラエモンみたいな人間ですね?」
Sさん:「バカヤロー!!
なるほどー。そんな人物とはなかなか出会いませんね。」
先生:「君、優生子(ゆうせいし)だよ!!」
我々:「優生子?」
先生:「そうだ。簡単に言うとエリートでなければ務まらん。
東大、一橋、早慶あたりの出身者で大手ゼネコンの営業部長クラスを頼む。」
Sさん:「いやー大変難しいご注文ですね。」
先生:「当然それなりの金は払う。本人にも君たちにも。」
Sさん:「いや先生、お金の問題というより、そのような人物はちょっとご紹介が難しいと・・・。」
先生:「ここまで来て腰が引けた事を言ってもらっては困る。
おーい!!」
先生が大声で呼ぶと、女性の秘書らしき方がお酒の準備を始めました。
Sさん:「ちょっと先生、それは困ります。まだ業務中ですので。」
先生:「何を固い事を言ってる!! まずは乾杯しよう!!」
Sさん:「いやいや困ります。武谷(たけや)、お前も飲むなよ!!」
先生:「そうか、俺がどんな覚悟で君たちに頼んでいると思っているんだ!!
幾らだ?」
Sさん:「着手金100万円、成功報酬200万円、合計300万円です。」
先生:「おーい、100万円用意しろ!!」
秘書さん:「承知致しました。」
Sさん:「ちょっと先生、本当に困ります。」
先生:「ほら、この小切手を持って帰りなさい。
いいか、もしこの依頼がうまく行かなくても返さなくていい。
今後のリクルートとの関係も変わらない。それでいいな?」
Sさん:「ははー、そこまでおっしゃっていただいて、お受けしないわけには参りませんね。」
先生:「だから乾杯だ!!」
Sさん:「はい。ありがとうございます。武谷(たけや)、毒入りかもしれんがいただこう。」
先生:「は、は、は!! よろしく頼むぞ。」
Sさん:「ご期待に沿えるように頑張ります!!」
こんな感じで、我々は先生に寄り切られてしまいました。
我々は先生の部屋で、ウィスキーのロックを1杯飲み干そうとしていました。
そうすると今度は、
先生:「よし、ここじゃあろくなつまみも無いな。君たち行くぞ!!」
とおっしゃって、運転手付の黒いジャガーに乗せられて、銀座の中心に連れて行かれました。
*ジャガーは、わずか200メートルぐらいを渋滞で20分ぐらいかかって到着しました。
徒歩の方が絶対早い。
ジャガーを降りて、先生が狭い路地を入って行かれ、我々はなすすべなく着いて行きました。
先生がガラガラと空けて入られたのは、いかにも高そうな寿司屋でした。
Sさん:「武谷(たけや)、ここはやばいぞ。高いからできるだけ食うなよ。」
寿司屋のご主人:「毎度いらっしゃいませ!!」
先生:「おー、あれー? 君たちも来てたのか?」
そこに3人の先客がいました。どうもこれが旧建設省の役人です。
役人の中で一番偉そうな人:「どうも先生。お元気そうで。」
先生:「何やら悪い相談事か? 俺の悪口か?」
役人の中で一番偉そうな人:「まあそんなとこかな。は、は、は。」
*何と40歳ぐらいの役人が、還暦の先生にため口です。
その後、役人3人は先生がいると話しにくいらしく、すぐに会計を済ませて出て行きました。
先生は、恐縮して箸が進まない我々に向って、このように言われました。
先生:「役人はな、自分たちが世の中で一番偉いと本気で思っている連中だ。
あいつら、この前、俺と飲んでいた時に何と言ったと思う?
先生のような有能な人を建築士にしておくのはもったいない。
先生は役人にしたいぐらいの人ですね。
こう言ったんだ。」
庶民は決して行けない銀座の寿司屋に来て、税金で飲み食いした挙句、先生にはため口。
この時、このままでは日本は役人に食い潰されると実感しました。
先生、いろいろ教えていただき、ありがとうございました。
*結局、100万円の小切手は、鬼マネージャーのSさん が仕方なく持ち帰りました。
「弱きもの人間 欲ふかきものにんげん 偽り多きものにんげん
そして人間のわたし」
みつを
合掌。