「危険なアポ取り(その5)メガバンクの頭取に会う!!」
円高不況を経て、バブル時代を迎えようとしていた時代です。
社会人3年目ぐらいだったでしょうか?
国際部門を強化しようとする都市銀行や政府系金融機関全てにアプローチし、
毎日のように大手町界隈の本店人事部を訪問していました。
「MBAホルダーや海外駐在経験者など、金融の国際化を推進する人材を採用しませんか?」
という提案をするためです。
当時の三菱銀行様、農林中央金庫様など新規にお取引いただき、大変お世話になりました。
相手が大銀行ですから、TELアポのターゲットは人事部長さんでした。
*中小企業であれば、社長にしか電話しません。
昔は、「会社役員録」と言うものがあり、大企業の主要役職者の名前が掲載されていました。
*相手が大銀行なので、さすがに頭取に電話をすることはしません。
人事部長でもヒヤヒヤもの、常識では採用担当者に電話するのが普通でしょう。
その中で、当時の第一勧業銀行様の事が記憶に残っています。
「会社役員録」で人事部長を探していると、取締役人事部長、奥田さんと言うお名前が
掲載されていました。
「取締役なら大きな決裁権があるだろう!!」と思い、いつものように電話しました。
私:「いつも大変お世話になっております。リクルートの武谷(たけや)です。
奥田重役をお願いします。」
*初めての電話でも何度も会っているかのように電話。
「武谷(たけや)と申します。」 などと言ってはいけない。
大銀行の取締役に直接電話する営業マンはほとんどいないので、あっさりつながりました。
奥田重役:「ゴホン!! あー、奥田ですが 」
私:「いつも大変お世話になっております。リクルートの武谷(たけや)と申します。
今回、金融機関の国際化を支援する新たなサービスが立ち上がりましたので、
御行に真っ先にご案内をと思いましてお電話しました。」
奥田重役:「どんなサービスかな?」
私:「はい。主に米国でMBAを取得し帰国する方々をご採用いただく企画でございます。」
奥田重役:「ほほー?」
私:「早速ですが、明日の14時はいかがでしょうか?」
という感じで、あっさりアポイントが取れました。
めったに電話がかかって来ない取締役の方が人事担当者よりアポを取りやすいのです。
ただ、大銀行の取締役に一兵卒の私が一人で会いに行くわけにもいかず、
鬼マネージャーのSさん に同行をお願いしました。
Sマネージャーは恐ろしい人ですが、頭が切れて営業力抜群ですので頼りになります。
翌日、当時の第一勧業銀行様の本店を、二人で訪問しました。
大きな受付で、訪問先、社名、氏名、訪問目的などを書かされましたが、
広い角部屋の役員室に直接通されました。
そこにメガネをかけ白髪まじりの頭髪の温厚そうな奥田重役が座っていらっしゃいました。
名刺交換の後、新たなサービスの企画概要を説明しました。
奥田重役も真面目に聞いてくださいました。
しかし、奥田重役は偉すぎて今ひとつ内容がおわかりにならない様子。
奥田重役:「うーん。悪いけど私じゃ内容がよくわからんなー。
担当の者を呼ぶから悪いがもう一度説明してくれ。」
我々沈黙:「わー困ったぞ。こりゃ人事課長とか人事担当者が出て来たら、
どうして頭越しに奥田重役にアポイントを取ったのか!!と怒られるぞ。
しかし、その時はその時だ。」
奥田重役に呼ばれて出て来たのは、人事部長代理でした。
我々:「出た!!いかにも嫌な銀行マンタイプだぞ。初めから怒ってるぞ。」
部長代理:「君たち、今日は何しに来たの?
うちはリクルート本社の広報企画部と取引があるが、話は通してあるの?」
我々:「もちろんです。(うそ) 今日は別件で新たな国際事業のサービスのご案内で参りました。」
部長代理:「何?その国際サービスは?」
その後、奥田重役に話した新サービスのご説明を再度しましたが、
そこから、部長代理の突込みが始まりました。
部長代理:「君たちはアメリカにMBA留学した経験はあるの?
ちなみに私は企業派遣でエールのMBAだけどね。」
部長代理:「あのね、君たちが言う5万人のリストの中には、
企業派遣でMBAコースに通っている人は何人いるの?」
我々:「数百人だと思います。」
部長代理:「あのね、うちの銀行が欲しいと思う人材は企業派遣で行っている連中だ。
自費で留学しているような連中には優秀な人材はいないよ。
私は実際にそれをアメリカで見て来たよ。
だからね、この程度の企画を、うちのような大銀行にプレゼンしても駄目だよ。」
これを聞いて、鬼マネージャーのSさん も怒ったらしく、
営業モードから、この部長代理を血祭りにするモードにシフトチェンジしました。
Sマネージャー :「さすが、エールのMBAですね!!
やっぱり違いますね。人材の宝庫だ。
武谷(たけや)、お前みたいな三流大学卒なんか、ここにはいないんだぞ。」
私:「全くその通りですね。さすがです!!」
Sマネージャー :「武谷(たけや)、エールのMBAのランキングを手元の資料で調べてみろ。」
私:「はい。あーすぐに出て来ました。さすが一番上のページに載っています。」
Sマネージャー :「何と書いてある?」
私:「はい。 『The most competitive』と書いてあります。」
Sマネージャー :「さすが、『The most competitive』!!
最上級ランクに入っていますね、凄い!!」
部長代理:「当り前だよ。そんな三流ビジネススクールに企業派遣で行ってどうしますか?」
Sマネージャー :「さすが、『The most competitive』 !!我々より何でも詳しい!!」
部長代理:「私は実際に行って来たからね。それは君たちよりわかってるよ。」
Sマネージャー :「さすが、『The most competitive』 !!
武谷(たけや)、今日はむしろ我々がお教えいただこう。もっと勉強しないと。
部長、もっと教えてください!!」
部長代理:「いやーだから、うちの銀行が欲しい人材は企業派遣で行っている連中だ。
自費で留学しているような連中には優秀な人材はいないよ。」
Sマネージャー :「さすが、『The most competitive』 !!」
このやり取りを横でご覧になっていた奥田重役は苦笑されていました。
ご自分の部下が明らかに馬鹿にされているのをご覧になっても、
メガネの奥の目がニヤニヤ笑っている。
我々:「さすが、取締役になる人は器が違う。」 と心の中で思いました。
その後も、鬼マネージャー のSさんは、
何度も 「さすが、『The most competitive』 !!」 を連発して帰って来ました。
さすがに最後は部長代理も馬鹿にされていると気が付いたようでした。
その1年か2年後、奥田重役が頭取に就任されたと、日経新聞に写真入りで出ていました。
「人事畑で人望が厚い」 と書かれていました。
またその後、全銀協の会長に就任されました。
大物と小物、コントラストがはっきりして、大変思い出に残る訪問でした。
「その場がきなけりゃ わかんねえ」 みつを
合掌。