「とりあえず入社してください?」
学生時代の友人A君が転職活動をしている。
文系卒だが、ものづくり産業が好きで大手メーカー一筋で来た。
3月末で退職し、49歳にして初めての転職だ。
我々エージェントから見ると、
「えー、その年齢で転職先を見つけるのは相当苦労するでしょう。」
と思うのが普通だ。
ところが、あっと言う間に内定した。
それは当然A君の能力や人柄の良さによるのだが、それでも活動を始めてわずか1ヶ月で
見つかるなんて、まるで20代の若者みたいだ。
またこの求人がめったにお目にかかれない誰でも応募したくなるような超レアモノだ。
まさに非公開求人であり、A君の経験にもピッタリはまっている。
A君:「あっという間に内定したんだけど、武谷(たけや)から見て、この求人どう思う?」
私:「いやー、こんな良い求人がよくあったね。これは行くしかないでしょう?」
A君:「仕事内容はやりがいがあるし、財務内容も良いし、前向きではあるけれど
ちょっと年収が下がるんだよね。」
私:「いやー、ある程度下がるのは仕方ないよ。それにそんな悪い給料じゃないよ。
年収よりも仕事内容とか、どんな人と一緒に働くのかという人間関係を重視した方がいいよ。
その辺はどうなの?」
A君:「まあ会った人たちは悪くない。むしろ、いい感じの人たちだけどね。」
私:「だったら問題ないね。この求人を逃したら、これ以上の求人は99%出て来ないと思うよ。」
A君:「うーん、その辺がわからないんだよね。
まだ活動を始めて1ヶ月だから、ちゃんと活動したら、もっと良い求人があるかもしれない、
と思ってしまうんだよね。」
私:「その気持ちはわかるけど、転職はタイミングとか縁が大事だからね。
新卒の時みたいに内定を複数GETして、その中から選ぶというわけにはいかないよ。
求人企業はそんなに待ってくれないよ。
20代の若者なら別だけどさ。」
A君:「今、他にも応募中の会社があって、これから面接に進むかもしれないんだよ。
それを全部断わって決めなければいけないのかな?」
私:「どんな会社に応募してるの?」
A君:「X社とか、Y社とか、Z社とか・・・・・。」
私:「だいたい知ってるけど、その辺の顔ぶれだったら、今内定している所の方がいいよ。
年収だって高いのは外資系の1社だけだし、その会社の業界は激しいから落ち着かないよ。
長年勤められるような会社じゃないよ。」
A君:「うん、カミサンも同じ事を言うんだよね。
とにかく直感だけど、今内定している所にしなさいと。」
私:「奥さんの方がよくわかってるね。
男の下手な考えより女の直感だよ。」
A君:「それからさ、明日が条件確認の面談なんだけど、口頭での条件提示しかないかもしれない。
ちゃんとした紙がないと不安だよね。
人材紹介会社からは、その場で入社の意思表示をしてほしいと言われているんだけど。
細かい話は抜きで、『とりあえず入社してください。』 という感じかな。」
私:「ダメダメ。ちゃんと採用条件通知書を書面でもらわないと。
採用条件は書面で明示しないと労基法違反だよ。
エージェントの人は何をやってるんだよ?
間に入って条件交渉とかしないの?」
A君:「普段ほとんど中途採用してない所だから、書面で条件提示する習慣がないみたいで、
人材紹介会社の人も言いにくそうなんだよね。」
私:「言いにくいとかいう問題じゃないよ。
労基法で決まっていることだから、ちゃんと書面で明示してもらわないと、何かあったら
お前はもちろん求人側もエージェントもみんなが困ることになるよ。
じゃあ俺が採用条件通知書のフォームをコピーしてくるから、それを参考に書面を
作成してもらうようにエージェントから求人側に頼んでもらった方がいいよ。」
A君:「ありがとう。すまんね。」
私:「とにかく書面で条件提示されるまでは、返事はしないようにね。」
果たして明日書面での条件提示はあるのでしょうか?
うまく話がまとまる事を祈りましょう。
初めての転職って難しいですね。
「アノネ ひとのことじゃないんだよ じぶんのことだよ」 みつを
合掌。