一昨日、昨日の続きで、本日は完結編です。
日経新聞の求人欄にエグゼクティブ募集の「匿名求人広告」を出しました。
反響は約100名ありましたが、帯に短したすきに長し。
無理やり10名程度に絞込み、お客様の常務のところに持参しました。
常務:「うーん・・・。武谷(たけや)くんの言うとおり、全体的に帯に短したすきに長しだねえ。
もう他に候補者はいないの?」
私:「いやー、まだ今後も新たな候補者が現れる可能性があります。
今しばらくお時間をちょうだいできないでしょうか?」
常務:「うーん、今しばらくと言われてもねえ。
そろそろ決めないといけない時期だから、待つにも限度があるよ。」
私:「承知しました。あらたな候補者が現れ次第、すぐにお持ちします。」
と急場をしのぎ帰社しました。
いやー、どうしようかなあー。
万策尽きたか?
やっぱりこの仕事は、新人の自分には荷が重かったかな。
などと落ち込んでいる時でした。
前回ご紹介した技術系キャリアコンサルタントのボスNさんが、私のところに来られました。
やや興奮気味の声で、
Nさん:「武谷君、それらしき人が来たよー!!」
私:「えっ、どんな人ですか?見せてください!!」
と言ってすぐにレジュメを見ました。
「男性・45歳・旧帝大卒・日本IBMの現職部長。部下300名。英語堪能。年収1500万円。」
という人でした。
私:「まさにお客さんのリクエストどおりの人ですね!!」
Nさん:「まだ喜ぶのは早いよ。会ってもいないし、冷やかしかもしれんからな。」
私:「お客さんも時間的な余裕が無くなってきてます。Nさん、すみませんが今日の夜に
電話でこの人と話をしてもらえませんか?」
ということで、その夜、Nさんは新しい候補者に電話をかけてくれました。
Nさん:「あなたはIBM1社で順調に出世もしていらっしゃるのになぜ転職を考えているのですか?」
候補者Aさん:「いや、特に不満があるわけじゃないんです。
ちょっと環境を変えてみるのもいいかなと思って書類を送ってみただけです。
申し訳ありませんが、やっぱり今回の応募は取り消してください。」
Nさん:「環境を変えたいとはずいぶん贅沢な悩みですな。
そんな贅沢な希望で今の地位や年収を
キープできる求人はめったにありませんよ。
ここで応募を取り消されたらノーチャンスになりますよ。
性急に結論を出す前に一度接触してみてはどうですか?」
さすが、キャリアコンサルタントのボスNさん!!
候補者Aさんの応募を取り消したいという言葉に、動じることなくすばらしい切り替えしトークでした。
まさにこの一言が流れを変えました。
私は早速、候補者Aさんのレジュメを常務のところに持参しました。
常務:「武谷君、これは逆転ホームランだねえ!!
君、こんな人がいるんだったらもっと早く持ってきてよ。
わざととっておいたんだろう。
本当にリクルートは商売上手なんだから。
いずれにしろ、すぐにでも会わせてくれ。
これも縁かなあ。
この人、大学も私の後輩じゃないか!!」
都心の有名ホテルでディナーをご一緒されることになりました。
そこで、常務と候補者Aさんは意気投合され、とんとん拍子で内定となりました。
ただ、Aさんが大物なので簡単にIBMを辞めることができないのがネックとなりました。
そこで、お客様の常務がニューヨーク本社に要請し、
米国IBM本社と直接掛け合ってもらうように頼まれたのです。
もともとこの外資系大手金融機関は、IBMの大ユーザーだったため、
IBM側もAさんの転職を認めざるを得ず、結果として極めて円満退職となりました。
私が仕事を依頼されたのが6月、Aさんが転職し入社できたのが翌年の1月でした。
Aさんは、入社後わずか半年で取締役に昇進されました。
そして、Aさんから直接私に電話がかかってきました。
角部屋の見晴らしのいい立派な役員室でした。
Aさん:「いやー、田舎の母親に転職すると言ったら心配してたから
この部屋の写真を撮って送ってあげたよ。
目の前に皇居が見えるこんないい部屋で働いているんだよ、
と伝えたら安心してくれて良かった。
君もまだ新卒らしいけれど、今回は尽力してくれてありがとう。」
私:「いえ、今回転職に成功されたのは、あくまでAさんのお力であって私は幸運だっただけです。」
Aさん:「いや、運も実力のうちだよ。
今日はね、君に新しい仕事を頼みたくて呼んだんだよ。
今度は僕の部下になる人材を10人ほど探してほしい。
よろしく頼む。」
私:「ありがとうございます~!! がんばります~!!」
という感じで、結局自分は何をしたのかよくわからない仕事でしたが、お客様をはじめ、
Nさんなど周囲の人たちの協力に恵まれて、結果として大きな仕事ができました。
その後Aさんから依頼された新しい仕事も順調に運び、私にとっては一番大切なお客様となりました。
私が数年間担当した後、後輩の営業マンに引き継いでからも
ずっとお付き合いは続き、現在もお取引いただいていると聞いています。
みなさん、誠にありがとうございました。
合掌。