重要人物の紹介が遅れていました。
多くの社員がこの人の子分と言ってもいいでしょう。
今日は、当時(1980年代)の取締役営業部長のMさんの話を書きます。
Mさんは、長身スマートでグルメで芸術的なセンスもあり大変おしゃれです。
人脈も多彩で豊富。
いつも着ているものが、似合っているというか若々しく格好いいです。
話もざっくばらんで、おもしろいので女性にもてます。
「ちょい悪」ではなく、 「めちゃ悪オヤジ」 です。
私が新人時代、飲んでいる時に、こんな本音を言っていました。
Mさん:「武谷(たけや)君、この会社は僕でもっているんだよ。
君、わかってる?
ところが、社長は好きな事ばかりやって、日々の汚れ仕事は俺に押し付ける。
生まれ変わったら、逆にあいつをこき使ってやる!!」
実際に、社長とMさんが大声で喧嘩しているのも聞いた事があります。
その時は、あまりの大声に驚きました。
喧嘩できるほど仲が良いということでしょう。
このMさん、昼間はソファーで寝ているか、週刊誌を読んでいます。
ただ、週刊誌を読んでいるふりをして、隅々まで社員をよく観察しています。
たまに、週刊誌の上から小さな目がこちらを見ていて視線が合ったりしてました。
しかし、Mさんの本当の仕事は夜です。
毎晩、いろいろな社員を誘って飲みに行きます。
そして、社員一人一人に関して様々な情報収集をします。
特に、営業アシスタントとか、客観的に営業マンの事をよく観察している人を
2~3人誘って飲みに行く事が多いです。
そこで、例えば、
Mさん:「ねー、今年の新人、どう思う?」
営業アシスタント:「うーん、それぞれですね。S君は頑張ってると思うけど。」
Mさん:「そー、じゃあ、武谷(たけや)はどう?」
営業アシスタント:「あー、何かいろいろ大変そうですね。時間かかりそうー。
クレームたくさん来るし、業績悪いくせに理屈が多くて偉そうだし。」
Mさん:「ほー、それは、みんながそう思ってるの?」
営業アシスタント:「ほとんどの人がそうじゃないですかー。
だって、うちのリーダーのNさんなんて、『あいつとは口利かない。』って
言ってますよ。」
Mさん:「そうかー、それは懲らしめないと駄目だねー。
いい情報、ありがとう。
実は僕も同じ事を思っていたんだ。」
このような会話が交わされ、その内、いよいよ私にお呼びがかかります。
Mさん:「おい、武谷(たけや)、今晩飲みに行くぞ!!」
私:「えー、今日ですか?」
Mさん:「何が『えー』だ!! 俺が言ってるんだ!! 黙って着いて来い!!」
そして、実際に飲み屋では、こんな話になります。
Mさん:「武谷(たけや)君、いろいろな人から君の評判を聞いてるけどね、
君、本当に評判悪いねー。
今年の新人の中で唯一と言うか、君ほど評判が悪い新人は居ないよ。
みんな、君は全然仕事してないと言ってるよ。」
私:「誰がどんな事を言ってるんですか!!
はっきり言ってくださいよ!!」
Mさん:「だから、みんな、君が仕事してない。
チームワークを乱している。
周囲の雰囲気を悪くしてると言ってるんだよ!!
僕はね、目先の業績で人を判断するような小者じゃないよ。
君が一番仕事に集中しなければいけない新人なのに、そうしてない事が
問題だと言ってるんだ!!」
私:「何言ってるんですか!! 仕事してますよ!!」
Mさん:「君ね、素直に人の話を聞かないと、取り返しがつかない人間になるよ!!」
私:「聞く話と聞かない話は、自分で判断して決めます!!」
というような最悪の展開になります。
私も極悪新人なので、勝手に席を立って別の初対面のお客さんの中に混じって飲んだりします。
そこでまた、その初対面のおじさんたちと喧嘩になり、首根っこをつかまれて連れ戻されます。
Mさんもあきれ果て、もう会話が成立しません。
私は勝手に店を出て帰ります。
当然、翌日は気まずいムードです。
Mさんは、私の上司に、
「あいつだけはクビにしろ!!」
と言っていたそうです。
私だけではなく先輩のみなさん全員と言っても良いほど多くの人が、みんな血祭りにされ、
多くの従業員の前で泣かされたり、人間性を否定されるような怒られ方をしてきました。
例えば、毎週の営業部会でも、こんな感じです。
毎日、営業マン別の目標達成率ランキングが配られますが、それを見ながら、
Mさん:「いやー、毎週、S君は調子がいいねー。
*当時、まだ契約社員で後に社員、マネージャーに昇進されたSさんという先輩が居ます。
最近、プライベートも充実してるからなー。
うらやましいねー。
S君、ちょっと一言、みんなに営業の秘訣を話してよ。」
Sさん:「えー? いやー、秘訣と言われましてもー。
営業マンとして当り前の事を毎日やっているだけです。
お客様から信頼されるように、嘘をつかない、お約束を守る、迅速に動く、定期的に訪問して
丁寧に報告する、などです。」
Mさん:「さすがだねー。
その基本ができそうでできないんだよ。
なー、A君!!」
いきなり槍が飛んで来たAさん、当時、入社3年目でリーダー的な役割を期待されるも
なかなか業績が低迷していた先輩社員です。
Mさん:「何黙ってるんだ!!
A君!! 君に言ってるんだ!!
毎週毎週、この数字は何だ!!
仕事してるのか!!」
Aさん:「いや、今回はお客様の社内事情で決済が遅れて、ヨミが来月にずれこみました。」
Mさん:「だったら、他のヨミをつくるのが営業だろー!!
君は何年この仕事をやってるんだ!!
毎週同じような屁理屈をこねるな!!」
というように、特定の人を思いっきり持ち上げ、特定のターゲットを思いっきり落とします。
その有無を言わせぬ、迫力と言うか凄みは玄人さんです。
その道に進んでも出世しただろうと思います。
ただ、Mさんが絶対に忘れない事がありました。
怒った人は必ず後で個別にフォローする。
怒ったり、フォローしたり、これは大変なエネルギーがかかることです。
Mさん:「いろいろ厳しい事を言ったけどね。
僕は君に期待してるから言ってるんだよ。
まあ悪く思わないで、明日から頑張ってくれよ。」
これで、みんな救われるわけです。
このようなある種、営業部門の天皇のような存在があり、有無を言わせない雰囲気と言うか、
目標達成しない奴は人間じゃない、チームワークを乱す勝手な奴は人間じゃない、
*両方当てはまるのが私。
という風土ができあがっていました。
社内でよく言われた言葉に、
「制度より風土」という言葉があります。
社員をルールでしばるより、組織の健全な風土をつくり、社員がその風土に沿って
自主的に自然と動くようになった組織はどんな組織よりも強いという意味です。
Mさん、ゆっくり楽しい隠居生活をされ、長生きしてください。
厳しくも暖かいご指導、誠にありがとうございました。
合掌。